いとうあきら イベントの企画・運営・演出を本業とするも、無類の食べ歩き好きが高じて“食べ手”の視点で店や料理を紹介。過去の書き手になかった大人の切り口で飲食への愛情を示した。著書に『東京百年レストラン(T〜V)』。

2020年04月01日

(134)白金「すし 良月(あきら)」

謙虚さと探求心、チャレンジ精神が
ほどよく同居した若きすし職人の新店


少し以前は、鮨店の新規オープンには敏感だったし、誰々の元にいた人が独立するらしいよ、みたいな前情報を入手することも多かった。ところが最近、すっかり興味が失せた。できる店できる店が全て、同じ内装、同じような顔、そしておしなべて高額なのだ。高級鮨店のチェーン化とでもいおうか。あれっ、今日はどこにいるんだっけと錯覚することもしばしばだ。

何か、他とは違うことをやろうとする店が現れないものかと期待するも、これだけの高額でも客が途切れない昨今では、あえて危険を冒す必要もないし、ミシュランガイドの二つ星店が、「初音鮨」「喜邑」「天本」とくれば、いったい何を目標にして頑張れば次のステップに上がれるのかも分からない気がする。

そんな中、一見しただけでは大きく違わないし、そこそこ高額なのだけど、知性と挑戦の二文字がはっきりと浮かび上がるフレッシュな店が、広尾寄りの白金にオープンした。「すし 良月」と書いて「あきら」という。店主・前岩和則さんの祖父の名前が朗(あきら)で、その字で店名の二文字を構成し、あきらとしたそうだ。何となく、ぼくの名前「章良(あきら)」との共通項を感じながら、自分の店に対する思い入れや工夫の度合いに、独特のインテリジェンスを見た。

店主は若干29歳。鮨店で長く修業をしてもしょうがないと主張する人も多くなってきたが、それにしても若い。スリムな体系で物腰に品もあり、鮨職人というよりは西洋料理でもやっていそうだ。聞けば西麻布の「すし匠まさ」に5年間在籍したという。「すし匠ハワイ」の中澤さんが、「すし匠まさ」は、自分の弟子の中でも一番やんちゃな男だとぼくに語っていたし、師匠とは全く違うキャラである。

この場所での前の営業も鮨店で居ぬきとはいえ、誰に出資を頼るわけでもなく自らの力で主となり、Max8席の店内に、店主をのぞくスタッフが3名もいて、全員がよく教育され、しっかりとコミュニケーションもとれている。食事をスタートする前から、驚き、感心することばかりなのだ。

店主との話の中で、和歌山県海南市出身だと聞いた。海南市といえば「紀土」の平和酒造だねとつぶやくと、はいと嬉しそうな表情だ。そしてビールには、平和酒造の「平和クラフト」、続いて平和酒造のプレミアム日本酒「無量山」が登場。次に定番の「紀土」純米吟醸と続き、深い郷土愛にこちらも感激。平和酒造の山本社長とは懇意なので、今度お連れするよと約束までしてしまった。

つまみから始まりにぎりへと、すし匠系のスタイルを踏襲しないオーソドックスな流れの中に、創意工夫と熱心な勉強や研究の成果が現れる。見かけはあくまでクールながら秘めた情熱も美味しさへの期待となる。
いっぽう、熟練の鮨職人の味にも接している自分には、若いなあと勇み足に感じる部分もある。しかし、それはあくまで伸びしろとしておこう。

店主が立つまな板の近くに、上からランプがいくつか吊るしてある。手元明かりかなあと思いきや、西洋料理でデシャップ時に冷めないよう使われる熱源ライトだった。どうやら、冷蔵庫から出してすぐの冷たすぎるすしタネの温度を調整するつもりのようだ。特にウニなどは冷たすぎてせっかくの旨味が感じられない場合も多々ある。それをデシャップ用のライトを使って管理しようという試み。特注で作ってもらったとか。そのアイデアと奇抜な発想には舌を巻いた。

店を辞する際名刺をいただいたので自分のものを渡すと、はっとして顔を上げ「ご著書は拝読しております」との言葉が返ってきた。正直、こんな若い料理人に言われたのは初めてだ。書店の料理本コーナーに入り浸って、本を物色するのが何よりの楽しみだそうだ。彼の見識の高さや柔軟性はどうりで、と認識し、やはり年齢や経験だけではないのだと悟る。今まで出会ったことのない特別な存在感のある若者が見送ってくれる姿は、いつまでもいつまでも店の前で眩しく輝いていた。

「すし良月」
●東京都渋谷区恵比寿2-37-8 グランデュオ広尾 1F
●050-3390-0121
●18:00〜22:30最終入店(月~土)、17:00〜21:30最終入店(日祝)
(ランチ営業は貸し切りのみ)
●不定休。
posted by 伊藤章良 at 11:21| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年03月01日

(133)白金「あき山」

ありそうでない
本質を突いた日本料理店

冒頭で、少しご報告。
昨年こちらの連載で紹介した、フランスのランスにある田中一行シェフの店「Racine」が、フランスのミシュランガイド2020にて、1ツ星から2ツ星に昇格した。
本当におめでとう。
http://otonameshi.seesaa.net/article/470607676.html
田中シェフはぼくに、2ツ星を狙うとハッキリ言っていた。それは、どうしたら2ツ星に昇格できるかがある程度わかるからだろう。日本のミシュランも、そんなガイドとなれるよう改革と成長を望みたい。

さて、
先日うかがった若い鮨職人の新店で、店主から「伊藤さんのお気に入りの鮨店はどこですか」と聞かれた。プロ・アマ問わず頻繁に来る質問で、ぼくの最近の答はひとつ。「新橋のしみづか、経堂の喜楽です」。
店主ばかりか、その日の店の客全員が一瞬シーンとなって、何か問題発言をしたかなあと、少し慌てた。

「新橋しみづ」の親方は、支払いを終えて辞する際、いつも何枚かのお店のカードを下さり、最近オープンしたんですよ、とか、河岸でよく合う真面目な男なんですとか、鮨にとどまらず、さまざまなお店のレア情報をくださる。2年近く前のこと、日本料理の「あき山」も、そんななかの一軒だった。

店主の秋山英登さんは、もともと「鮨 真」での修業経験があり、「いまむら」「真」「しみづ」の店主と奥様が、揃ってカウンターに並んだことがあったらしい。秋山さんは神宮前「樋口」での厨房にもいて、体育会系で名高い樋口兄弟にも鍛えられ、「そんな程度では動じない男なんですよ」と親方は絶賛だった。

そしてぼくは、オープン間もない「あき山」に向かった。とてもおいしくていい店だったが、まだこなれていない点や多少気になるところがあったので、近々再訪しようと思っていたら、なんとミシュランガイド東京で星を獲得し、一気に予約が取れなくなってしまった。

外食産業をも蝕む新型コロナの影響もあってか、やっと予約が取れ、再び「あき山」の客になることができた。場所は、恵比寿から北里大学へと続くバス通り沿い。電車の最寄り駅から遠なので、その分落ち着いた雰囲気の漂う界隈。ぼくは、ほぼ筋向いにあるもつ焼「鳥平」にもよく通っている。

店内に入った瞬間、とても落ち着いたなあと感じた。でも、何も変わっていないという。これぞ風格、だろうか。日本料理店ながら店内の色使いが独特で、それがまた快適さを呼んでいる。料理人は、日本料理店には珍しい黒の上下。そして左利きの店主は黒いまな板も使う。

オープン当初にうかがった際、個々の料理はそれぞれすぐれているので、後は、構成や流れにもう少し経験が必要かなあと感じていた。しかし、そんな不安はまったく払拭され、絶妙と唸りたくなるぐらいの心憎い展開。生の魚介はストレートに提供せずひと手間かける工夫、春を感じさせる食材は、さまざまな技法で緩急がつく。店主もお好きなのだろう、日本酒の品ぞろえは申し分なく、さらに、それぞれの皿は優しい味わいなのに酒を呼ぶ。幸せだなあとしみじみ思いながら杯を重ねた。

圧巻は、最後の食事。まぐろのお刺身、肉のしぐれ煮、別途お椀に山盛りシラス。それだけでバランスのいい定食として完成している。料理とお酒をしみじみ堪能させた後は、お腹いっぱいになってもらおうと、店からの贈り物。ぼくの中で日本一と揺るぎない日本料理、大阪の「もめん」にも通じるところがある。

さらにその後、師匠「樋口」譲りの蕎麦も出されるのだ。こちらも穏やかなテイストの蕎麦つゆに驚き嘆息したら、たっぷりつけて召し上がっていただきたいんですと店主。「ざるそばは、おつゆと一緒に食べなさい」と母に教えられた関西人のぼくにとって、願ってもない言葉だつた。

食べる愉しみと満腹の喜び。ありそうでない、料理屋としての本質を余すところなく堪体験した夜だった。

「あき山」
●03-6277-0723
●東京都港区白金6-5-3さくら白金101
●12:00〜14:00、18:00〜23:00
●不定休
http://akiyamashirokane.com/
posted by 伊藤章良 at 14:52| Comment(0) | 日本料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年02月01日

(132)白金「RAMA」

名店ひしめく広尾の高架下に
大人のためのサロン的イタリアン登場


恵比寿三丁目交差点からプラチナ通りに至る、首都高速高架下のスペースには小さな飲食店が密集する。ラーメン、焼鳥、居酒屋、トンカツなど、決して交通至便とは言えないエリアにもかかわらず、意外と息の長い店が多い。しかも「酉玉」「寅」「すずき」などの名店も生まれている。いっぽう、これらの裏側というか、反対には細い路地があって薄暗い住宅街。少々場違いな定食屋があったり、趣味が高じたような中国料理店を見つけたり。

先日その路を歩いていたら、大きなガラス張りの中に浮かび上がる不思議な店ができていた。「RAMA」と書いてレイマと読むらしい。暗い中での回りとの溶け込み具合と隔絶感が表裏一体で、よくぞ創ったなあと嘆息し、どんな連中が始めたのかにわかに興味が湧き、さっそく予約して訪れた。

入口のドアは重厚で、開けるにはグッと大きな力が必要。男がエスコートするために考えられたかのようで憎いなあと思っていたら、そこでエントランスは終わらず、ダイニングへと続く、いかにも女性が開けるにふさわしい軽快な引き戸がある。

直線ではない緩やかなカーブを描いたカウンター、一段下がったところに施された肘置き、カウンターとキッチンを隔てるように等間隔に設置された真鍮の横長ランプ、カジュアルながら座り心地のいい椅子。店舗としての過去の成功事例をコツコツと集め、それを丁寧にまとめつつ斬新さが生み出す空間だ。

カウンターの中には料理人とサービスの男性が2人。この内装に全く違和感のないグッドルッキングないで立ちだ。しかも何気なく見ていると、2人のチームワークが冴えている。最終仕上げを残した段階で、料理人からサービスに鍋が手渡され、客の前で人数に合わせて皿に盛りつけ、各種チーズやトリュフなどのトッピングを施し提供する。出来上がった料理をただ運ぶだけではない。ひと手間かけるところに料理人以外のヒトの気持ちがこもり、的確な料理の説明とも相まって、食べる前から美味しさが約束されているような気になる。

と、ここまで書くとあまりにも女性向きの店のように伝わってしまうが、それに反して料理やワインは硬派だ。料理は近頃では珍しい、コース主体ではなくアラカルトが中心。メニュー決めはおざなりではすまされず、選ぶ側の度量や経験も求められる。輪郭のはっきりした強めの味付けが多く、食材もニンニクや内臓等もふんだんに使う。トウキョウ風にアレンジされたイタメシは鳴りを潜め、現地さながらのパワフルさが頼もしい。

ワインはグラスでの提供を中心として、サービスというよりソムリエさながらの彼が、ご自身の独自のテーマをもって集めていると感じた。イタリア・フランスの王道が一種類、そして様々な国やブドウをチョイスした個性的なものがいくつか。王道も変則も、ワインそのもののポテンシャルを感じさせながら角がとれてバランスがよく、想像以上の満足かつ料理との相性も確かだった。水はタップウォーターでいいよとお願いしたら、美しいゴブレットにうやうやしく氷を入れ、カクテルを作るようにマドラーを回す。そんな所作の一つをとっても心がこもって、ペットボトルから注がれるミネラルウォーター以上においしそうだ。

久しぶりに、イタリア料理店としての高い充実感を得て店を去る際、ソムリエと思っていたセンターの男性が挨拶に出てこられ名刺をいただいた。そこにはエグゼクティブシェフとあった。そうか、彼が料理もワインも内装デザインも、店全体を統括する要であったに違いない。失礼なことを書いてしまったが、ある意味、それを感じさせないことも「RAMA」の大きな魅力と理解した。  

まだ、マスコミの取材を受けていないとのことだ。食べログは3.04(2020年1月)である。評価については、それぞれの力関係や右へならえの慣習もあろう。しかし、この店が静かに放っている求心力とサロン的な大人の空間は、「ペレグリーノ」の牙城を脅かす可能性を秘めているのではないかと密かに思った。

「RAMA(レイマ)」
https://www.ramatokyo.com/
posted by 伊藤章良 at 21:31| Comment(0) | イタリア料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年01月01日

(131)神奈川・子安「金剛商店138番地」

ストレスなしのワンオペが満腹へと導く。
昼はキムチ店というコスパ抜群のビストロ


あけましておめでとうございます。
2020年、日本人ばかりではなく世界中の人々が、日本の「あつさ」に驚き浮かれることでしょう。そんな中、ぶれないクールな視点で食の世界を論じていきたいと思います。

不朽の名作ドラマ「傷だらけの天使」のロケ地としても有名な代々木駅前の雑居ビルに「煮込みやなりた」なる名前の、フランス料理らしからぬ名前のビストロがあった。このビルが取り壊しになるとのことで、同じく代々木駅の反対側に移転(実はその後も長期間そのままだったものの、最近やっと工事が始まっている)。安価ですごいボリュームだけが話題となり、全く予約の取れない、縁遠い店となった。ただ、シェフの成田英壽さんは、毎年フランスに行くほどフランス料理を愛し研究し実践されていた。「煮こみや なりた」の料理は、リヨンの「ブション」を想起させる豪快ですばらしい本格的なフランス料理だったわけだが、惜しまれつつ2018年末に閉店した。

ぼくのまわりにも多くの移転前からの「煮こみや なりた」ファンがいて、自らの予約がかなわなくても、年に一度ぐらいは誰かが誘ってくださったし、そんな面々は、いつしか「なりたりあん」と呼ばれるほどになったのである。

「なりたりあん」の面々とは今でも個人的に付き合いがあり、健啖家ばかりで食事をしても楽しいメンバーだ。彼ら彼女らは今でも口々に、「なりたロス」を口にする。なかなかあれほど迫力のある現地さながらの料理店は見つからないのだ。

ところが最近、そんな「なりたロス」を忘れさせてくれる店が見つかったらしく、何度か声をかけていただき、やっと先日伺うことができた。「金剛商店138番地」という、レストランなのかと首をかしげる店名だ。場所は横浜の子安。京浜急行に乗って初めて向かったが、新子安とかJRにも子安駅があるようで意外とわかりにくいエリアだった。

駅を出て、線路の下をくぐって左折。なんとなく代々木の「なりた」へのアプローチにも似てるなあと思った瞬間に「金剛商店138番地」は登場した。入口にドアはなく防寒用の分厚い透明ビニールで囲われていて、この辺も「煮こみやなりた」とそっくりだ。ビニールを開いて中に入ると、すぐ目の前にカウンターのみ10席ほど。ただし、どうやら2階にはテーブル席があるらしい。カウンターの向こうにシェフがひとり。これでスタッフは全員だ。ちなみにトイレは、鍵を借りて外に向かう。小さいがとても清潔だった。

「金剛商店138番地」は、昼間はシェフのお母さんがキムチなどの食材売っている商店で、その横でシェフが仕込みをしていると聞いた。
毎日のメニューは黒板に書かれていて、店主が決めたルールと価格帯によって何皿か選ぶ。基本はフランス・イタリア料理。バリエーションが豊富で、特にメインの肉など何種類もあり、よくここまでひとりで揃え、仕込むなぁと舌を巻く。メニューの中にシチリア風〇〇とあったので思わず頭の中で想像してひと皿に加えると「イメージされているのとウチのは少し違ったアレンジなんですが、よろしいですかと」すかさず丁寧な注釈が入り、シェフの真面目さが伝わってくる。

その日は一番のり。カウンターの椅子に腰かけて待つ。シェフの準備が整い音楽が流れ始めるとBGMはレゲエ。飲食を待たずして、レゲエ好きのぼくの気持ちは相当アガってきた。

というか、目の前のシェフの、キッチンでの動きを観ているだけでも、中途半端な芝居より見ごたえがある。飲み物の注文を聴いて、オープンに放り込んで、フライパンを振って、ディッシュアップして、きちんと料理への説明も入る。その一連の流れに一分のスキもなく、いっときも体が止まることもないのだ。

そして、「煮込みやなりた」と一番異なるのは、料理が出てくるタイミング。「なりた」の場合、やはりなかなかひと皿目が出てこなかったし、多くのワンオペの料理店は、待たせることも値打ちのひとつ、みたいに、シェフが悠然とと対応するところも多い。
ところが「金剛商店」は、まったくストレスなく、まさにポンポンといった感じで皿が出てくる。しかも、どの料理も手が込んでいて、味付けにもさまざまな工夫があるので、夢中になってアッという間に食べてしまっても、いつの間にと、シェフのお顔をマジ見するぐらい、さっと次の皿が出てくるのだ。

最近のワンオペ傾向には、この連載で問題提起もさせていただいたが、ここまで徹底的にひとりきりのすごさを見せつけられると、グウの音も出ないのだ。

ふらっとのぞいて、満席と知り寂しそうに去る客も散見。子安まで出張してきた自分は、少し申し訳ない気もした。というのも、ここのハイボール。四ツ木や八広といった酎ハイ街道にある酒場並みの怪しさ・強烈さ。キムチをツマミに、安価で酔いたい、そんな方々の席を奪ってしまったようだ。

でも、ワンオペの痛快さと満腹になる料理をぜひ体験していただきたいと思うと、書かざるを得ないのである。

「金剛商店138番地」
●神奈川県横浜市神奈川区七島町138
●045-421-4902
●18:30〜22:30(入店20:00まで)
●日休。臨時休業アリ。

posted by 伊藤章良 at 19:26| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年12月01日

(130)銀座「薪焼 銀座おのでら」

シェフとソムリエとの信頼が生む
納得できる料理とワインのペアリング

昨今は、予約困難店の席を確保するまでに相当の知恵や労力を費やしてしまうからなのか、食事中はできるだけ頭を使わない、そして、可能な限りボロが出ないような展開が好まれるようだ。

高級江戸前鮨では、カウンターに座って以降まったく店側とのコミュニケーションは必要もなく、ひたすら料理と酒が出てきて、最後に高額の請求が来るので躊躇なく支払う。予約をとることのできた人がもっともすばらしく、鯔背に鮨を食べたり、店の職人や同席者と会話を楽しんだりするのは二の次となった。この傾向は、天ぷら、焼鳥と、カウンター中心で、男女を問わず一人でも訪問できる環境ならば、いずれの場合も増える一方だ。

頭を使わなくていい(言い換えれば、勉強しなくていい)、ボロが出ないようにしたいという傾向は、西洋料理のテーブルでも多くみられるようになってきた。もともとコース構成が主体ではあるものの、それに合わせるワインも、ペアリングという形で店側がグラスで提供する。いいレストランになればなるほど分厚いワインリストがあり、それと長時間にらみ合いながら、最後にソムリエとも相談して何とか一本に絞り込む作業は本当に楽しかった。最近はソムリエの存在が果たして必要なのかと心配になるほど、どこの店でもペアリングはいかがですかと勧めてくる。

これについては、視力の衰えが顕著で細かいワインリストを読み解く根気が薄れてきた自分もその提案にのることが多い。また、料理にどのようなワインを合わせて完成させたいのか、シェフやソムリエの考えに興味もある。そうは言いつつ、ぼくの感覚では、半分以上はドンピシャとは思えず、ちょっと違うかなあと首をかしげてしまう。シェフはこの皿とワインを本当に合わせたかったのかと悩ましいのだ。

今年のフランス巡りでは、元三つ星を含めると5軒の星付きレストランに行った。そのうち4軒でペアリング、1軒はソムリエと相談してワインをボトルで選び、結局自分で選んだワインが一番印象的だった。

そんな中、今回取り上げる「薪焼 銀座おのでら」は、すべての皿に対し用意されたワインが驚嘆のマリアージュで、本当に驚き感動し、ペアリングの真の愉しさを堪能することができたのである。

「薪焼 銀座おのでら」は、2019年7月にオープン。鮨、天ぷら、鉄板焼などをワールドワイドに展開しているグループの印象が強い中、火力を薪にフォーカスしたフランス料理店である。場所はおのでらグループ核店舗が入るビルの一角。カウンター中心で個室もあるようだ。

種明かしをすると、「薪焼 銀座おのでら」のシェフは寺田恵一。「カンテサンス」や「神宮前 傳」等で研鑽を積んできた料理人。一方ソムリエは、市村暢央。「カンテサンス」でシェフソムリエを長く勤め、現在はおのでらグループ全体を見つつ、寺田シェフを迎え入れて二人の考える日本のフランス料理を追求する店づくりに携わる。

薪焼と銘打つだけあり、火力はほとんどが薪だ。炭を使う店は多くあるし日本人は使い方も巧みである。一方薪は、一般的にはピッツァ窯ぐらいしか知られていない。設備も大がかりになるし、何より火加減という面での熟練が必要だろう。
ただし、薪からの直接の炎で火が入るので、焦げ方から自然で香り高い。フィレンツェに、今でも薪のみでステーキを焼く名店があり、そこのステーキは本当にすばらしい。その店はガスの通らないころから薪での調理実績があるのだ。都会のビル内にて始め、4か月ながら特徴を見切っての安定した火入れや、さらに薪焼の個性を注入した新たなレシピの数々に瞠目。さらにそんな皿に対し、針の穴に通すほど細心で大胆なワインがペアリングされるのである。
あまり種明かしはしたくないが、薪焼の肉だからといっても、堂々と白ワインが供されたりする。.

ソムリエの市村さんは、「カンテサンス」時代から、もし一緒にやるならこの男だと思っていましたと、寺田シェフを評価する。二人の間に生まれるマリアージュは、単に料理とワインのペアではなく、深い信頼と愛情にあふれているんだなと強く感じた。となるとますます、ペアリングの世界は奥が深い。

薪焼 銀座おのでら
●東京都中央区銀座5-14-14サンリット銀座ビルIII 9階 
●050-3628-1295
●水、日休
●17:30 〜20:30LO



posted by 伊藤章良 at 12:36| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年11月01日

(129)フランス・ケゼルスベール「CHAMBARD」

日本でフランス料理を食べたいと思えなくなった
フランス料理の底力を見せた一軒


先月の続き、である。
ぼくは毎年パリまでは行っているが、2019年秋、久しぶりにパリから地方へと向かった。その目的は食ではなく村だ。フランスでは「フランスの最も美しい村」を認定する協会が1982年に設立された。その厳格なルールにそって認められた美しい村が、フランス全土に150以上存在する。人口が2000人以下で、歴史的文化的遺産を持ち、景観を損ねる新たな建造物は許されない。経済発展よりも、遺産を守り観光産業に特化するという村の宣言でもあるようだ。今まで食オンリーだったフランス渡航ながら、ようやく観光らしい観光をすることに決め、パリからアルザス地方の起点となるストラスブールに移動した。ストラスブールから、アルザス一帯に点在する最も美しい村、エーグイスハイム、ユナヴィール、アンスパック、ミッテルベルカイム、リクヴィールといった村々をどのように回るか、そしてそこに息吹くワイナリーのどこに行くか検討を重ねた。

といっても、食についても忘れることはない。前回紹介した「レストラン ラシーヌ」の田中一行シェフに、今年はアルザスを回遊するので、あの辺でどこかおすすめのレストランはないかと聞いていたのである。そこで彼が紹介してくれたのは、ミシュラン二つ星の「シャンバール」という店だった。全く知らない。でも田中シェフの推薦なら、ここは外すわけにはいかない。そのレストンがあるケゼルスベールは、そうとう不便なところだ。そして、フランスの最も美し村には認定されていないが、それに匹敵する素敵な場所のようだ。

アルザスにある最も美しい村巡りの一村に加えたぼくは、さっそく予約を開始。「シャンバール」はオーベルジュ(宿泊施設付きレストラン)だったが、あえてそこには泊まらず、すぐ近くに宿をとった。チェックインの際、今日のディナーはどうするのかとホテルのフロントに聞かれたので、「シャンバール」に行くつもりだと答えると、即座に「予約はしたのか」と。とんでもない田舎にあっても、予約がないと入れないのは想定内だけど、さすがフランス、さすがミシュランガイド。日本のものとは、歴史も価値も目的すら違う。

ホテルフロントに教えられた通り、ほんの100メートル程度のメインストリートを歩き、通りに面した店のドアを開ける。まるで山小屋風の居酒屋だ。そして満席。首を傾けつつ入口に立つ真っ赤なスーツを着た長身の女性に予約の旨を告げると、ああ、それはこっちよと指示。

居酒屋を通り抜けると、突然、鹿の角が天井各所にディスプレイされた広いレセプションに出た。いかにもアルザスのレストランといった感じの、自然とモダンが融合したスペースだ。ダイニングはもちろん、二つ星をきちんとわきまえた、ゴージャスな空間。どこから来たのか、品のいい男女が、すでに多くのテーブルを囲っている。そして、ダイニングに通されて初めて、この店の入口は自分が入ったところとは別にあることに気づいた。

もちろん、事前にこのレストランを検索してみたが、ほとんど情報がなく、まして日本人が書いているものは見当たらなかった。三つ星ではないゆえ、コレクターの餌食にもならず、この辺鄙な地区にて徹頭徹尾アルザスの地方料理を昇華させてきたに違いない。

最近のフランスはどこでもそのようだが、まずは手でつまんでいただくアミューズが出る。続いてフォワグラ。最初からアルザスの名物が登場だ。「冬のアルザスのフォワグラ アルザス地方の菓子ベラベッカのソース 山のチーズ」。
ひとさじ口にして最初に思ったのは、未だかつて食べたことのない特別なおいしさ。時が止まったような気がして陶然となった。信じられないぐらいフレッシュでなめらかなフォワグラにベラベッカ、つまりドライフルーツのソース、そして素朴なチーズ。このシンプルな三位一体がとてつもなく巨大で複雑な味を創り出し、個々が小さく主張しながらも口の中で儚く消える。半分ぐらい食べたとき、もう半分しかないのかと天を仰ぎたくなった。

魚料理は「アルザスの山の岩魚 ザリガニ、エスカルゴと共に パセリのソース」。
サービススタッフは英語でトロートと言ったので、味わいや色も含めておそらくマスだろう。これは特筆すべきことは少ないものの、皿にイクラがちりばめてあり、日本的に言うと親子状態。メニューに記載はないし、フランスでも生の魚卵は食べるのですかと聞いたら、そんなに量は多くないのでとはぐらかされた。

さらなる初体験はメインの鹿。シェフ オリビエ・ナスティ自ら撃ってしとめたものだ。フランスで野性の鹿肉を食べるのは初めて。国内外であらゆる四つ足を口にしてきたつもりでも、そのどの肉とも違う、そしてどの肉からも抜きんでた食感。チープな表現だが、馬肉や牛肉、イノシシ、熊など、獣の赤身の特徴的な部分があちこちから顔をのぞかせているようだ。強烈に大きなナイフがプリセットされたのに、自重だけでもスパンと切れそうなぐらい、引き締まりつつも柔らかい肉質。肉の旨さというより、山の自然の恵みを舌に覚えさせていた。

最初に迎えてくれた真っ赤なスーツの女性は、やはりマダムだった。子供のころ日本に住んだことがあると言い、少しだけ日本語を話した。素朴で自然体な女性でミシュラン二つ星のレストランでは珍しく感じ、同席した妻は、最後まで「あの人がマダムかなあ」と言っていた。ぼくにとっては、料理もマダムも、わざわざこの地まで来なければ決して出会えない稀有な存在として呼応したのだった。

2018年は、たまたまその年の世界のベストレストランでトップだったイタリアはモデナの店に行った。でも帰国後さっそく日本のイタリア料理店にも足は向いた。ところが今回のフランス紀行は、改めてフランス料理の底力を思い知ることとなった。パリで展開されているような、見かけの美しさや驚きだけを皿の上表現した似非日本料理とは違う、地に足の着いた真のフランス料理に何度となく出会った。帰国して一か月、未だに日本でフランス料理を食べたいとは思わない。そして来年もまた、再びフランスの地方をめぐりたいと切に願った。

Le Chambard - Hotel Restaurant Alsace
●9-13 Rue du Général de Gaulle, 68240
Kaysersberg,
●+33 3 89 47 10 17


posted by 伊藤章良 at 23:22| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年10月01日

(128)フランス・ランス「Restaurant Racine」

皿から見えるフランス料理と日本料理のアウフヘーベン。
ランスでさらなる上をめざす日本人シェフ

ぼくは毎年パリには行っているが、2019年秋、8年ぶりぐらいにパリ以外の地方を2週間かけて回った。目的はいろいろとあり、スケジュールを組むのに苦労したが、中でも最大の楽しみは、現地で活躍する日本人シェフに会うことだった。

8年前、フランスのミシュラン三ツ星オーベルジュ「レジス・マルコン」を訪れた時のこと。食事の大半が終わり、そろそろ会計かなと考えていると、サービスから厨房に日本人がいるので紹介しようかと言われた。それは願ってもないお話。登場したのは田中一行さん。彼は、厨房を案内しシェフのレジス・マルコン氏に引き合わせ、自分はガールフレンドの故郷ランスにてレストランを開くつもりだと語り、同じ「レジス・マルコン」で働くフランス人のガールフレンドにも会わせてくれた。「コンニチワ」と日本語で挨拶をした、とても可愛らしい女性だった。オーブンしたら、必ず訪ねるからねと約束し厨房を後にした。

その後田中シェフは、プラン通りランスに結婚した奥様と二人で「レストラン・ラシーヌ」を開き、オープン一年半後にミシュラン一ツ星を獲得。2年前に移転・拡張した。

出会いから8年後、ぼくはようやくランスに渡り、念願だった「レステラン・ラシーヌ」のドアを開いた。もちろん最初に出迎えてくださったのは、あの時厨房にいたフランス人のマダムだ。

エントランスの左側は全面ガラス張りの厨房、ダイニングは木目の格子を使ったりと、どことなく和を意識した落ち着いた内装の中、厨房のよく見える奥の席に通された。もちろんフロアのスタッフはマダムを中止人に全員フランス人だが、厨房は、シェフの他、料理人が4人全員が日本人、厨房の公用語は日本語だ。

料理は筆舌につくしがたく、ぼくの表現力では伝えきれないぐらいにすばらしい。特筆したいのは、今、フランス人のトップシェフたちがもっとも作りたいと切望するが、なかなかその域に到達しないレベルの、フランス料理と日本料理のアウフヘーベンがある。

一番顕著なのが魚の火入れ。限りなく生に近い状態ながら、どの段階で止めるか、その「寸止め」の感覚や技術は日本人、いや田中シェフにしかできない極み。しかも、オマール海老は1分28秒とか、ライトの熱だけで2時間とか、彼の中で最適な時間がきっちり出来上がっている。

加えて、酸の使い方である。自作したビネガーが50種類を越えるというシェフだが、酸、つまりすっぱさも、おお、と嘆息するぐらいの強い踏み込みながら、付け合せに果物を紛れ込ませ、ほのかに甘味で中和させる。その面白さは、過去を思い出しても未だ記憶のない感動だ。

シェフは噛んだ時の音まで考えて食材を組み合わせると語る。そういった地道にコツコツと育んだ要素の一つ一つが、最良の状態で皿にのるのだから、食べる喜びは、まさに日本人としての誇りだ。

二ツ星をとりたいと、シェフは素直に語る。「レジス・マルコン」にいたおかげで、それなりの食材業者とのルートはあるが、二ツ星になると、業者の方からトップクラスの食材を供してもらえるのだそうだ。よりグレードの高い食材を得るために星を獲る。まさに田中シェフらしい言葉だった。

今、「レストラン・ラシーヌ」のフランス人のお客様はわずか4割。それ以外は外国人なのだそうた。ランスという世界に冠たるシャンパーニュの地に買い付けに来るバイヤーがその魅力を知り、一年後の予約をして帰国するという。二ツ星を獲得しこの店のすごさをフランス人が知り始めると、いったいどうなるのか。想像しただけで、今からゾクゾクが止まらない。

田中シェフに、なぜラシーヌという名前にしたのかと聞いたら、根っこという意味なのですが、自分とヨメがその根っこになり大きく育てて行きたいという意味ですと話された。その意図もさすがだか、フランス人の奥様をヨメという九州の男らしい口ぶりが、印象に残った。

Restaurant Racine
●0033 326 35 16 95
●6, place Godinot 51100 Reims
●12:15~13:30、19:15~21:00
●火水休






posted by 伊藤章良 at 23:03| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年09月01日

(127)ハワイ「ハマダ・ゼネラルストア」

ハワイアン・アレンジが効きまくる
滞在中に通うべき朝昼食堂

ハワイリピーター初期の皆さんが確実にハマるレストランの代表が「サイドストリート・イン」である。innとは宿泊施設のことを指すが、ハワイでは食堂を意味し、各所に「〇〇イン」という名のレストランを散見する。いずれもローカルの人たちが朝から夜まで楽しそうに語らい食事をする素敵な場所。「サイドストリート・イン」は、中でも若者や仕事終わりの現地ビジネスマンが深夜まで騒ぐスポットとして認知され、カパフル大通りには、大人数に向けた広いスペースの2号店を出し、本店はさらにリモデルして発展し続ける。

確かにいい店だし勧めることも多いものの、料理がかなり塩辛いのと時間によって安定していないことも何度か経験し、食にこだわる諸氏には、さらに一歩先を行く別の店にお連れすることが増えた。ハワイコンベンションセンター近くにある「ホーム・バー&グリル」である。

この店に初めて入ったのは、10年近く前だったか。無謀にも何の前知識もなく飛び込みで駐車場にクルマを止めドアを開けたら、入口に見たこともないぐらい大きなガードマンが座っていてギョッとし引き返そうかと思った。だが、にこやかに通してくれたいい奴で、「ホーム・バー&グリル」の料理を堪能できた。確かにおいしいのは、それもそのはず。後になって、この店のシェフはハワイ随一と言われるレストラン「アラン・ウォンズ」出身だと分かったのである。それゆえか、オーナーシェフのアラン・ウォン氏も時折訪れると聞いた。

大変気に入って、その後も様々な友人を連れて訪問したが、ある時、全員のIDを見せろと言われたりと不穏な雰囲気も感じているうち、2019年、突然閉店したことを前を通って知った。連日満席で、決して経営的に苦労していた気配はないので、衝撃は大きかったし、未だその真相も判明してない。

しかし、朗報もゲットしていた。「ホーム・バー&グリル」のシェフが、新たな食堂の厨房に立っているというのである。しかもその店の名が「ハマダ・ゼネラルストア」。おや、インではなくストアなのか。

もちろんスーパーマーケットの総菜売り場ではない。
Amazonが経営する高級スーパー「ホール・フーズ」が新しくでき、ますます賑わいを見せるワード地区。しかも「ホール・フーズ」からもほど近い場所に、その食堂は完成していた。というか、ぼくが訪れた際はまだ看板もついておらず、ここが「ハマダ・ゼネラルストア」と知らなければ、気づかず素通りしてしまうだろう。

しかし、道路から少し奥まった場所にある建物内を全面改装し駐車スペースも十分。単なる食堂とは思えない広くて最新の厨房を目の当たりにしたら、この店は只者ではないと気づく。スタッフの数も十分だ。看板はないが、店内にはすでにオリジナルデザインのTシャツも販売されていて、外観が整うのも時間の問題だろう。

「ハマダ・ゼネラルストア」が完全な食堂運営なのは、営業時間が午前7時〜午後2時まで(2019年夏現在)。間違いなく人気が出ると思うので、この時間帯は変更を余儀なくされる可能性もある。この時間を見る限り、「ホーム・バー&グリル」が閉店したのは、シェフが深夜まで仕事をしたくなかったというのが真相かもれない。

メニューは、サンドイッチ、プレート、サイドデッシュ、オミヤゲとある。
キムチやネギなどの扱いがとても巧みだった往年の「ホーム・バー&グリル」を彷彿とさせる垂涎ものもちらほら。「キムチ・ステーキ」や「ネギトロポキボール」「カツカレー・モコ」「ワフー・ハンバーグ」など。どれもこれも、いかにもなハワイアレンジが利きまくってそうで、メニューを見ているだけで楽しい。

実際に食すと、明らかに普通の食堂とは違う「冴え」を感じるおいしさ。フォークの動きが止まらなかった。しかも、ソースやドレッシング、普通に炒めた感じの玉ねぎ等にも奥深い工夫があった。これはもう、滞在中に一度は通うべき。さらには、ハワイ最終日にこちらでテイクアウトして空港に行くという試みも毎回となりそうだ。

さて、さすがにハワイの物価は高く、「ハマダ・ゼネラルストア」のメニューも主なものは15ドルを越える。一回のランチに2000円近く使う計算だ。量はハワイサイズだけど、おいしいしいろいろ食べたいので、2人で分けるという選択肢はない。ここは旅行先ゆえの贅沢ランチで財布の紐を緩めていただきたい。

観光客としてもそこそこ高く感じるのに、ハワイの民は裕福そうには見えない庶民的な方々も、こういった高額ランチを普通に楽しそうに食べている。
金銭感覚が違うのかなとハワイ在住の日本人に話したら、ハワイは衣食住のうち「衣」にほとんど金がかからないので、意外と大丈夫なのだそう。なるほど。


「Hamada General Store」
●(808) 379-199
●885 Queen St Honolulu, HI 96813
●日休
posted by 伊藤章良 at 17:21| Comment(0) | その他 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年08月01日

(126)表参道「GOSU」

美辞麗句は必要なし。
ただ純粋に、すぐれた店



一回の食事に費やすお金の価値が、本当に分からなくなってきている。
コストパフォーマンスという和製英語が食事の価格にも普通に使われ、コスパやCPがいいね、みたいな会話も日常。ところが、なにをもってコスパがいいのかと突っ込んでも、そこから明確な回答は得られない。それは単純に、コスパの意味が分からないからだ。
元々の価値の良しあしを、自分の舌ではなく情報のみに頼っている現状では、判断もつきにくいし、判断力も醸成されない。
ぼく個人は、飲食でいうコスパは、情報に影響されない満足度対価格比であってほしいし、著名なシェフの料理だから、あの漁師が獲った魚だからみたいな前提は、本来のコスパには不要なのだ。

ぼくは、中村悌二氏率いる飲食グループ「フェアグランド」の店舗が、東京で最もコスパ(情報に影響されない満足度対価格比)のいいレストランだと思っている。
ここを巣立った面々は、「高太郎」「バール・ボツサ」「酒井商会」「の元」など、各所で人気を博しているし、代表の中村悌二さんを中心に開いていたスクール出身者を合わせるとさらに数えきれない。
中村悌二さんは、どんどん独立をしてくれればいい、独立店が人気になれば、どこの出身かと必ず辿られ、ひいてはうちのグループ全体にもいい影響かあるんだよと語っている。
そんな「フェアグランド」の中から、今回は、表参道の「GOSU」を、紹介したい。
グループでも、唯一洋風の打ち出しをしている店かと思う。

「GOSU」の満足度は、とにかく総合的に優れた点だ。
もはや大多数のレストランが、「総合的にいい」を目指さなくなった。著名なシェフの元で修業した料理人、現地でワイン造りまで体験したソムリエ、海外のホテルまで手掛ける有名デザイナーの内装、生産者を回って見つけた、有機農家の〇〇さんから直接仕入れた野菜。
最近では当たり前すぎるこれらの美辞麗句は、どこまでが本当の、といえば失礼だが、語れる価値のある内容か。もっと問うなら、どこまで客がその差に気づき、興じることができるかだ。
それはたぶん、他人を誘うとき、そこに様々な尾ひれがあれば箔がつくし、相手にも興味を持ってもらいやすいのは確かだが

「GOSU」は、もしかしたらスペックで食べているひとには響かないかもしれな。いっぼう、どんなシチュエーション、どんな相手とでも、決して失敗することはない。さらに、支払いの談になれば、相当感謝されるはずだ。それこそが、総合力なのだ。
国道246号から少し奥まったビルの地下。数軒の飲食店が並ぶエリアだが、店内ではそれを感じさせる気配はなく、完全な「GOSU」の世界観に引き込まれる。それはまず、スタッフの客に対する姿勢と統一感だろう。気持ちがいい、の一言だ。さほど広いダイニングではないが、席間やレイアウトがゆったりしているのも、功を奏している。

「GOSU」の料理を伝えるのは少し難しい。言葉を選ばないと、単なる創作料理の類に見えてしまう。メニューを見ると、どれもすべて食べて観たくなるほど全方位的で食材も多岐に渡る。餃子もパスタも肉団子もあり、それらは想像や期待の常に上をいく。中華の定番マコモタケを肉巻きにして使う。うにのフリットにも驚かされた。いずれも申し分なくうまい。しかも、愛情の注がれた調理を感じ、サービスとの連携の妙も加わってくる。
さらにうれしいのは酒、特にワインだ。安価で良質な、しかも店の料理との相性も寝られたワインを世界中から探してきてリスト化している。グラスワインの種類も豊富だし飲み放題まである。
しかも、料理もワインも、それを客に伝えるグラフィックの使い方が巧みで美しい。とても理解しやすく、随所に興味をそそり、自然と指を差してしまう。それが、総合力のなせる技なのだ。

「GOSU」は、食べログでもぐるなびでも、ダイニングバーとなっている。つまり情報先行型の有象無象には、選択肢として響かないだろう。だからこそ、ずば抜けて客層がいい。
様々に研鑽を積み、試行錯誤も繰り返し、一周回ってこの位置まで来た。
知り尽くした大人が原点に戻って求める場所、そんな印象だ。ここは、もしかしたら最も先端を走るレストランなのではないか。そんな想いを巡らせながら、店を後にした。

GOSU
●03-6450-5339
●東京都渋谷区神宮前5-51-8 ラ・ポルト青山B1F
●月〜金、祝前日: 18:00〜翌0:00 (料理LO.23:00 ドリンクLO.23:00)
土、祝日: 17:00〜23:00 (料理LO.22:00 ドリンクLO22:00)
●日休
posted by 伊藤章良 at 23:57| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2019年07月01日

(125)熱海「THE HIRAMATSU HOTELS&RESORTS 熱海」

高級レストランの世界的グループが仕掛ける
日仏融合の大人の遊び場


ソムリエとは、大人の日本人ならたいていその職業が分かるほどポピュラーだが、アメリカ人など英語を母国語とする人たちはほとんど知らない。オーベルジュとなるとさらに特殊で英語圏では全く通じないが、意外と日本人には理解されやすい。
オーベルジュとは、フランスにある宿泊施設付きレストランのこと。温泉旅館同様一泊二食付き。食事と宿泊が込みの料金で、飲んだお酒のみ別払いとなるのが通例だ。

フランスの著名なオーベルシュをいくつか訪問したが、パリなどで高級レストランを利用するときとは圧倒的な違いが一点ある。それは、ダイニングの座席が利用宿泊施設のランク順に、きちんと割り振られることだ。
パリの高級フランス料理店なら、確実に、アジア・中近東エリアの席に通される。料理の内容は別として、パリで食事をしているという臨場感も高揚感も、そこには生まれない。
一度、パリでぼくの通訳をしてくれている友人に頼んで、ネイティブのフランス語で「ランブロワジー」を予約してもらったら、アジア人席をスルーして奥のフランス人席に通された。パリでのレストランの予約は、ネイティプフランス人に頼むしかないなと納得した記憶が残っている。

日本でも、オーベルジュは早々に全国各地で生まれると期待をしたものの、オーベルジュと名乗りながらもペンションの延長だったり、ホテルの付け足しだったりと、料理のクオリティが伴わなかった。

そこで、やっとというか流石と唸るか、高級飲食店展開では世界唯一の一部上場企業としても過言ではない「ひらまつグループ」が、その事業に乗り出した。レストランにある程度成功を収めると、次に宿泊施設、そして学校と拡大するのは多くの飲食店運営会社を見ていると同様の流れがあるが、ひらまつグループは、日本という風土の持つ慣習や肌感覚を壊すことなく、いや、それを大胆に活用し、世界を視野に入れて日本的オーベルジュを、全国各地に作り始めた。

今回取り上げるのは「THE HIRAMATSU HOTELS&RESORTS 熱海」。ホテルズ・アンド・リゾーツでは、世界中の観光地にある大型施設の印象が強く、せっかく作ろうとしている日本的オーベルジュに逆行するような気がして少し残念に感じる。

気分を取り直し、熱海の駅からタクシーで向かう。タクシードライバーは「ひらまつ」というだけで場所を熟知しており、熱海城の上ですよと説明がある。まさに城へ攻め込まれないように作られた、迷路のようなヘアピンカーブを登り、高級和風旅館の趣もある玄関に止まった。
数人の男女スタッフが駆け出して出迎え、荷物を取る。フランスにはない和のもてなしが心地よい。個人の別荘だった純和風の物件を買い受け、そこに洋風の宿泊施設を建て回して完成させたと説明を受ける。なんとも奥ゆかしい建物だ。

もちろん和風の建物ゆえ、玄関と三和土(たたき)がある。そして意外にも靴を脱いで上がるのだ。それ以降施設を辞するまで靴を預け、館内は極上のスリッパで移動。オーベルジュと思い、ドレスアップを考えてきた女性などは相当の肩透かしではないか。ところが、元来室内では裸足で生活するDNAを持つ民族。時が経つにつれ、スリッパで過ごし、スリッパでフランス料理を食べる贅沢な寛ぎは、ここだけの体験だと高揚する。

エントランスでも度肝を抜かれたが、客室はさらに和洋折衷の極みである。ドアを開けてすぐ、部屋の半分は最高クラスのベッドルーム。ホテル客室のベッドカバーは靴のままベッドに上がった際、シーツが汚れないためにあるものだが、ここではすでに不要だ。
客室の真ん中に、部屋全体を間仕切るスライドドアがあり、そのドアを開けはなんと、ど真ん中に風呂、左右に洗面台、奥にシャワールーム。そして全面がガラス張りの巨大な窓。体がしっかり伸ばせる広い湯船には、熱海の温泉が引かれ、24時間、温度も42度に保たれている。

窓からのぞむ相模湾には、海へと視界を遮るものは一切なく、道路や民家も遥か遠くかすかに見える程度。もちろん車の音など全く聞こえない静謐な場。ここまで完璧なプライベート空間が日本の中で実現すること自体、ここは日本なのかと錯覚する。

ディナーは、ふたたび玄関のある日本家屋へと移動し、地元の食材を中心としたフランス料理を堪能。ザ・フランス料理の食材には頼らない、工夫や切り崩しが随所に見えて勢いがある。また、この環境からの和食寄りや流行りのイノベイティブなアプローチには頼らない決意が、美味しさをさらに確実なものにする。。

人生初、スリッパでのディナーに勝るとも劣らないのが、ひらまつ流というか、ひらまつの真骨頂であるサービスだ。料理やワインを何倍にも美味しく感じさせる彼ら彼女らの笑顔、そつのない動き。と、ここまでは市中のレストランにも見られるが、さらに加わるのが、客個人の個性やテーブル内の関係性、求める情報などによって、きちんと過不足なく応対できる柔軟性だろうか。

東京・品川からなら、ほんの30分。予約の取れない寿司店で信じられない高額を支払う客が絶えない東京のグルメ事情。熱海のこんな隠れ家に、どうして目が向かないのかと、日本人はつくづくお金の使い方が下手な人種だと悲しくなる。
優雅で豊かな遊びとは、こんな場所にこもってゆったりと時間を費やすことに他ならない。なお、一人でもこちらの施設は利用できる。

THE HIRAMATSU HOTELS&RESORTS 熱海
●静岡県熱海市熱海1993−237
●0557-52-3301

posted by 伊藤章良 at 18:10| Comment(0) | フランス料理 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする